「あんな退場の仕方、疑わないほうがおかしい。真っ先に自ら死にに行くなんて」


 彼は敬語を忘れているようだが、そのかしこさに免じて許すことにする。

 そう、僕の陳腐(ちんぷ)なシナリオを疑わない奴らが馬鹿なのだ。


「その通りだ、九人もいるのに気づいたのが君だけなんて、僕は恥ずかしいよ。フェイクの部屋を見つけて喜んでいる咲真なんて特にね」


 物事が思惑(おもわく)通りに進んだことを思い出してつい笑いが零れる。


「……どうしてこんな真似したんですか――白羽部長」


 彼のその態度と言葉は、少しだけ心外だった。


「どうして、って……僕は君のためを思ってやったんだ。嫌いな奴を殺して楽しめただろ? 愛するありすの色々な姿を存分に堪能(たんのう)できただろ? 感謝こそされど、恨まれる覚えはないな」

「君のため、なんてとんだエゴです。それを見て一番楽しんだのは誰ですか?」


 ――正直、驚いた。

 まさか彼の口からそんな言葉が出るなんて。

 気がついているにしても、いないにしても、そんな思考に至る程度には正気だということだ。


「その言葉、そっくりそのまま、君に返すよ」


 彼は何も言わない。


「……ところで僕のエゴに、君は満足できた?」


 僕が訊いて、水無は表情をころりと変えて――それを見て、彼がやはり正気ではないことに安心した。