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 ――彼女、否、彼といったほうが正しいのか。

 とにかく、かつての衣純――水無はとうとうやり遂げた。

 復讐を終え、(いびつ)な愛を貫いたのだ。

 モニターの向こうで立ち尽くす彼が、どんな顔をしているのか。

 この目で確かめるのが楽しみで仕方がない。

 はやる気持ちも抑えず、足早に庭園へと向かう。

 庭園へ通ずるドアを開けば、彼は微動だにせず、未だに処刑台のほうを向いて立ち尽くしている。

 ドアを開く音は聞こえただろうに、こちらを一瞥(いちべつ)することすらしない。

 ――まあいい、エンディングに浸っているのだろう。

 もうすぐ役目を終えようとしているハートの女王に、称賛の拍手を送る。


「おめでとう、水無」


 僕が声をかけて、ようやく彼は振り向いた。


「……やっぱり、あなただったんですね」


 彼は口角を僅かに上げたまま、せっかくの綺麗な顔を少しだけ引き()らせながら呟いた。


「気づいてくれて、うれしいよ」