……これ以上、足掻(あが)く術は思いつかない。

 水無君がおもむろに端末を拾い上げる。

 彼の指先は、私の名前の上に乗っていた。


『ハートの女王が、最後の処刑を望みました』


 放送が流れ、仮面が現れ、私の体は抱えられていく。

 ……いつから、どこから、仕組まれていたのだろう。

 絶望に沈みゆく意識の中で、今までのことが走馬灯となり蘇る。

 思い出に浸って、気づけば私は処刑台の上にいた。

 頭を固定されている。

 ……私は、愚かで、無知で、みんなに騙されて。

 最後に見るのが、最悪の狂人なんて。

 最悪で、最低の終わり方。


「……私が死んだら、満足?」

「うん、とっても」


 私を見つめるのは、みんなが目を逸らし続けた結果生まれてしまったバケモノだ。

 すべてを諦めるしかない私にとって、その怪物が私の死によって救われるということが、希望にすら思えた。

 最後なのだからと微笑んで、首に冷たいものがあたって。

 最後に見たのは、うれしそうな顔。

 最後に聞いたのは、どこまでも純粋な声――


「愛してるよ、ありす」


 ――バケモノなんかじゃない。

 それは紛れもなく私と同じ人間の、真心が詰まった言葉だった。