「ここに来てずーっと、見てたんだ。僕の部屋、モニターがあってさ。ありすが食事するところとか、シャワーを浴びるところとか、笑うところとか泣くところとか、キスするところとか、絶望してるところとか、全部全部、見てた。そうやってありすを見てたらさ、もっともっと、僕の知らないありすを見たくなっちゃって」


 それを聞き終わる頃にはもう、私の心は恐怖に(おぼ)れてしまっていた。


「ああ、そうそう、その絶望する顔、好きだなぁ。僕はどんなありすも愛せるよ」


 ――怖い、怖い、怖い。

 涙と震えが止まらない。

 こんな奴をずっと、仲間だと思っていたなんて。


最後(・・)にさ、ありすの死ぬところが見たいな」


 水無君は私の耳元で囁いて、ポケットから端末を取り出す。

 ――私は、その瞬間を見逃さなかった。

 端末を弾き飛ばし、一瞬呆気にとられた水無君の腕の中からするりと抜け出す。

 慌てて端末を拾い上げ、その画面に食い入る。

 ……そこに、水無君の名前はない。


「……僕の名前があるとでも?」

 もしかしたら――それに賭けたのに、希望はいとも簡単に打ち砕かれた。

 力の抜けた私の手から、端末が滑り落ちる。


「み、水無くんを、衣純ちゃんを、処刑します!」


 波多君が祐奈にやったように叫んでも、仮面たちが現れる様子はない。


「――この遊戯(ゲーム)はすべて、ハートの女王のために仕組まれたことなんだ。ハートの女王を処刑するなんて、はじめからできなかったんだよ」