「……小さい頃、無理やり親に彫られた。ずっと消したかったけど、でも、しなかった。ありすにこうやって見せたかったからだよ。犯人、なんて言い方は心外だけど――僕が手紙の差出人だよ。ストーカーなんかじゃない。怖がらせてごめんね、ありす」


 それを聞いて、身震いがした。

 頬に伸ばされた水無君の手を振り払う。


「……どうしてそんなことするの、僕はありすを愛してるのに」

「――やめて!」


 愛してる?

 こんなことをするのは愛なんかではない。

 エゴだ。自分のことしか考えていない。

 彼はおかしい、異常で、狂っている。


「君に近づくために心みたいな女と一緒にいるのも、そもそも僕を助けてくれなかった奴らと仲間ごっこするのも、すごく苦しかったんだよ?」


 私はじりじりと後退するが、水無君は距離を離すことなく詰め寄って来る。


「邪魔な奴は死んだのに? ありすを(もてあそ)ぶような奴は殺したのに?」


 狂気に染まるその瞳に、逃げる隙は見当たらない。


「ねえありす、それなのに、僕を受け入れるどころか、認めてもくれないの?」

「……そんなの、認めない……」


 みんなを騙して、殺したなんて。

 どんな理由があっても、許せない。

 みんなが正しくて水無君が間違っているわけではない。

 みんな、間違っていて、でも正しいところもあって。

 それは水無君だって同じだ。


「水無君が……衣純ちゃんがやったことは間違ってる」