「……どうかな」


 水無君は言葉を(にご)す。


「ねえ、ありす」


 水無君の手が伸ばされて、思わず肩をすくめた。

 しかしその手は、私の頬を優しく撫でるだけだった。


「僕は君に救われた。僕は君が好きなんだ。君のために、ここまで変わったんだよ」


 その切なげな眼差しに、心が射貫かれる思いだった。

 それが何の感情なのか、自分でもわからない。

 でも、彼が私に向けるのが悪意ではないということだけは充分すぎるほど理解した。


「……でもそれなのに、ありす、君は。咲真にずっと騙されていた」


 水無君の眼差しが鋭いものに変わる。

 ――私が咲真に騙されていた?


「咲真は、私を騙してなんか……」

「君たちが恋人になったきっかけは何?」

「それは、私にストーカーがついて――」


 それを咲真が解決してくれて、私たちは距離を縮めた。

 一体、咲真が私をどう騙していたというのだろう。