「思い出した?」

「……なんで水無君が知ってるの?」

「なんでって……」


 言いかける水無君――ふと、彼の首元に視線が留まった。

 ……火傷の跡を隠していると言った、その包帯。

 衣純ちゃんと重なって見えるのは、偶然なんかではないかもしれない。


「僕が衣純だから、だよ」

「……そんなこと」


 そんなこと、ありえない、はずだ。


「そんなことが、あるんだよ」

「――衣純ちゃんは死んだ! 海で、自殺して……」

「遺体は見つかった? 見つかるわけないよね、ここに生きてるもん。本当、失礼な話」


 ……確かに見つかったのは靴だけだ。

 でも、衣純ちゃんが死んでいないとしても、まさかそんなことあるはずがない。

 水無君が衣純ちゃんだなんて、そんなことがーー……。

 たしかに衣純ちゃんの顔は、いつもマスクに覆われていたからよく知らない。

 だからといって、衣純ちゃんが水無君に成り代わって、偽って生きているとしても、人がそんなに変われるとは思えない。


「あなたが、衣純ちゃんなんて、信じられない!」

「まあ無理もないかな、大分変わったし」


 そもそも性別だって違うのに、一体どう信じろというのだろう。


「いろんな手術もしたし、性別も変えた」


 ……不可能ではない話かもしれないが、たかだか中学生の衣純ちゃんに、どうしてそんなことができたのだろう。

 協力してくれるような親だとしたら、まずはその火傷の跡とやらを治してくれそうなものだ。

 それに費用の想像なんて到底つかないけれど、中学生の手が届く金額ではないことはわかる。

 水無君の語ることが本当だとしても、一体どうやったのか不可解だった。


「……不思議そうな顔してるね。どうやったか教えようか? 金と縁があれば、簡単なことさ」