彼女がぽつりと落とした言葉は、とても難しい質問だった。

 答えならいくらでも並べられる。

 優越感を得たいから。

 暇つぶしになるから。

 思いつく答えはどれも、どうしようもないことか彼女を傷つける言葉で、私はそれを口に出すことはできなかった。


「……気に、しないほうがいいよ」


 絞り出した言葉は、まったく気持ちのこもっていない、間を繋ぐためのもので。

 気の利いた言葉なんて思いつかなかった。

 それが伝わってしまったのか、衣純ちゃんはまた黙り込む。


「いじめるほうが悪いんだから、ね」

「……でも、私、変、だし……変わらなきゃ……」


 衣純ちゃんはそう言って俯いたけれど、それは、違うと思う。

 いじめるほうが悪いし、おかしい。

 変わるべきなのはいじめるほうだ。

 いつも傍観しているだけで止める勇気もないくせに私は、弱い存在を前に何を(おご)ったのか、そんなことを考える。

 気づけば、本心を言うべく口を開いていた。


「あなたは変じゃないし、間違ってないよ。無理に変わろうとしなくていいと思う。ねえ、だからもう泣かないで、衣純ちゃん」


 ――衣純ちゃんと会話を交わしたのは、それが最初で、最後だった。

 彼女はそれから少し経って、海へ身を投げたんだ。

 私は衣純ちゃんと話したことを誰にも言わなかった。

 ……それなのに、どうして。

 どうして水無君が、私の言ったことを知っているのだろうか。