「ねえ、何言ってるの? 水無君、どうかしてる! おかしいよ……」

「おかしい、なんて……ありす、なんで君がそんなこと言うの? 僕が何を思おうが、それはすべて真実で、何ひとつおかしくなんてない。間違っていない、ねえありす、それを教えてくれたのは君じゃない?」


 ……彼は間違っている、正しくなんかない。

 私が彼に、何を教えたというのだろう。

 水無君とそんな類の会話を交わしたことなどないはずだ。

 思い当たることは何もなかった。


「……ねえ、本当に忘れちゃったの? ありすとの会話、僕は一字一句(たが)わずに覚えてる自信があるよ」

「――水無君とそんな話、したことない!」


 私が言うと、水無君は少し悲しげに顔を歪めた。

 しかしその表情は、すぐに一変する。


「ああ、確かに、『僕』とは話してないから、仕方ないよね。自分の言ったこと、聞いたら思い出すかな? 『あなたは変じゃないし、間違ってないよ。無理に変わろうとしなくていいと思う。ねえ、だからもう泣かないで、――』」


 水無君が言う台詞の途中、いつかの光景がフラッシュバックする。

 ……ああ、思い出した。

 確かに私は、そんな台詞を吐いたことがある。

 でもそれは、水無君にではない。


「『――衣純ちゃん』」