「な、なんで……っ」


 咲真は何もかも信じられない、そういった感じで目を見開いている。

 私だってそうだ、何より――水無君がハートの女王なんて。

 水無君の手にある端末には、部員みんなの名前が書いてある。

 水無君の指は、咲真の名前の上に乗せられていた。


「……水無君、なんで……?」


 私が訊ねても水無君は、小さく笑うだけだった。

 食堂のドアが開き、仮面たちが姿を現す。

 咲真が両脇を抱えられ、連れ去られていく。


「やめろ……っ、なんで――ありす、助けてくれ!」

「咲真……っ」


 私に向かって伸ばされた咲真の手――私は思わずそれに手を差し伸べた。

 しかし、咲真の手に触れることは叶わなかった。


「お前がありすに触れる資格はないよ」


 水無君が、咲真の手を叩き落したのだった。

 優しいはずの水無君の瞳は、これ以上ないくらいの冷酷さで満ちている。

 ……咲真を連れて行かないで。

 必死で仮面たちにしがみつくが、いとも簡単に振り払われてしまう。


「咲真、咲真!」

「ありす――ごめんな」


 諦めきった表情で咲真は言って、扉の向こうへと連れて行かれてしまった。

 追うことはしなかった。

 咲真が死ぬ瞬間なんか、とても見られない。


「あーあ、最後まで本当、ずるい奴」


 水無君がため息をつく。

 その表情には、不気味な笑みが張り付いていた。