咲真の目はもう、正気の色を保っていない。

 ……彼はきっと、信じることを諦めてしまった。

 彼女の私ですら、友達の水無君ですら、彼の心にはもう触れられないと悟ってしまう。


「でもやっぱり、ありすが先か?」


 楽しそうに言う咲真を、とても見ていられなかった。


「……ありすのこと、信じないの?」


 水無君が言うと、咲真はそれを鼻で笑う。


「――最初から俺は、誰も信用してない」


 咲真の言葉に、頭が真っ白になるのを感じた。

 ……全部、嘘?

 一緒に頑張ろうとしたのも、あの日一緒に寝た夜も。

 心の中ではずっと、私を疑っていたの?

 涙が溢れて止まらなかった。


「咲真……どうして」

「信じるほうが馬鹿なんだ……誰が敵かわからないなら、初めから全員疑うべきだろ」

「でもさぁ、咲真」


 咲真は私と違い平然とした様子の水無君を見て、次の言葉を待った。


「ありすはハートの女王じゃないよ」