咲真はそんな言葉と笑い声を最後に、放送を切った。

 ……どうしよう。

 咲真を止めないと、咲真から逃げないと。

 色々な思いが頭の中を巡って、私は足がすくんでしまった。

 しゃがみ込むと、冷たい床に涙が落ちる。

 ――もう、こんな現実、嫌だった。

 ここから逃げられるなら、咲真に殺されてもいいとさえ、思ってしまった。


「ありす、泣かないで」


 水無君が背中をさすってくれる。

 ……咲真が来るのに。

 逃げないのだろうか、咲真を止めてくれるのだろうか。

 ただしゃくり上げながら、水無君の優しさを受け入れることしかできなかった。

 私がそうしている間に、食堂のドアが開いた。

 顔を上げると、そこには、見たこともないような笑みを浮かべた咲真がいた。


「逃げなかったんだ?」

「咲真……やめてよ」


 返事の代わりに告げた懇願(こんがん)を、受け入れてくれる様子はないみたいだった。


「ありす、水無……どっちがハートの女王だ? ……ああ、いや、もうどっちでもいいや。二人とも、処刑だ」