平然とそんな言葉を言い放つ咲真に、呼吸の仕方を忘れた。

 ……私と、水無君を疑っているの?

 思わず水無君のほうを見ると、彼は口元に手を当てていて表情を読むことはできなかった。

 少しの沈黙の後で訪れたのは、初めて咲真の笑い声を聞く瞬間だった。

 咲真は表情が乏しく、なかなか感情を表に出さない。

 普段私に見せるのだって、微笑む程度かにやにや笑い。

 ……そんな咲真が、今、大きく声をあげて笑っている。


「咲真……?」


 何がおかしいの。

 何が楽しいの。

 彼は私の声の届かない場所で、いつまでもいつまでも笑っていた。


『――二人とも、もう疲れただろ?』


 笑い声が止んで、次に聞こえたのはそんな台詞だった。


『俺も疲れたよ、もう、嫌なんだ……俺はここから出たい。生き延びたい。だから今から――二人のことを殺しに行くよ』


 咲真が何を言っているのか、わからなかった。

 ……私と水無君を……殺す?

 呆然としていると、水無君に背中を軽く叩かれた。


「……大丈夫」


 そう囁く彼がどうして冷静なのか、どうして微笑んでいられるのか、私にはわからない。

 ――私は誰のことも、何一つ理解できないままだった。


『ああ、隠れても無駄だよ、ここから全部見えるから。今から行くから、待ってろよ』