「……辛いよね。でも、一緒に頑張ろうよ」


　心の涙を服の袖(そで)で拭い取る。

　それでも追いつかないくらい、彼女は泣くことをやめなかった。


「――どうしてそんなふうにできるの……？」


　かすれた声は、聞き取るのがやっとだ。


「心だから……私の親友だからだよ」


　私が言ったところで心は、ハッと私の背後を見つめ、固まった。

　不思議に思い、私も振り向く。

　屋敷の扉の前に、水無君が立っていた。

　扉が閉まりきっていないところを見て、今しがた屋敷から出てきたのだろうと推測する。


「ごめんありす、やっぱり私……もう、戻れないや」

「え……」


　私が心のほうへ向き直ると同時に、彼女に押し倒された。

　次の瞬間、私は突然に苦しみを覚えた。

　理解できない――理解したくない光景が、目の前にある。

　……心が、私の首を絞めている。

　酸素を得ることができず、意識が遠のきそうになる。

　必死で意識にしがみついて、見たのは心の泣き顔。

　聞いたのは、水無君が心を止める声――それと。


『ハートの女王が処刑を望みました』