しかし、聞こえてくるはずの銃声は、聞こえなかった。

 そうっと目を開ける。


「……なんで」


 そこには、呆然と自分の手を見つめる心の姿があった。

 彼女はもう一度、引き金を引く。

 今度は目を開けたまま、その時を迎えたけれど、やっぱり銃声が聞こえることはなかった。


「なんで、なんでよ……」


 心は壊れたように同じ言葉を繰り返して、同じ動作を繰り返す。

 しかし私が撃たれることはなく、カチャカチャと金属音が響くだけ。


「心……」

 何だかいたたまれなくなって、傍へと歩いた。


「来ないで!」


 心は目から涙を溢れさせながら、なおも引き金を引くことをやめない。


「ねえ心、もうやめて……」


 私は拳銃に手を伸ばす。

 心は、それを拒まなかった。

 心の緩んだ手の中から拳銃を引き抜き、捨てた。