「そ、そんなの、できない……」


 何を言っているの?

 心はどうかしてしまったの?

 頭の中が疑問符で埋め尽くされる。


「ね、ありす、ありすがハートの女王でしょ? 水無のこと、処刑してみせてよ」


 それを聞いた瞬間、勝手に体が動いていた。

 私の両腕が突き飛ばした心は、地面に倒れこむ。


「私はハートの女王じゃないし、水無君を殺したりしない……! 心、自分が何言ってるかわかってるの?」

「……そんなの」


 心は俯いたまま立ち上がり、スカートを払う。


「そんなの、わかってる。言っておくけど私は正気だよ」


 顔をあげた心をいつも通りだとはーー正気だとは、思えなかった。

 すべてを諦めたような眼差しで、口元だけが嘲るように歪んでいる。


「正気じゃない! おかしいよ!」


 私がそれを言ったが早いか、心はほぼ同時に、私に見覚えのあるものを突き付けた。


「黙って」


 心に言われた通りに、私は口をつぐむ。

 穏やかであるはずの昼下がりに、あまりに不似合いすぎる鈍色(にびいろ)が光る。

 心の手にある拳銃――その銃口の先は、しっかりと私を(とら)えていた。