「へぇ、なんでその場に水無がいたの?」

「それは、たまたま……」


 何一つ嘘は言っていない。

 それなのに心は依然として、ジトリとした視線を絡みつけてくる。


「――心は、勘違いしてるんだよ! 私、嘘なんかついてない!」

「……まあそんなの、正直どっちでもいいんだよね」


 必死に訴える私を一蹴して、心はため息を一つ落とした。


「……どういうこと?」

「昨日何があったとしても、もう関係ない。もう水無と私は終わったの。終わっちゃったの。ね、ありす、ありすはいいね。私、ありすがうらやましいな」

「こ、心……?」


 心はおもむろに、私に抱き着いてきた。

 行動の意味がわからなくて、私は彼女の体に腕を回すことを躊躇った。


「ねえありす、大好き。ずっとずっと大好きで、ずっとずっと、うらやましかったよ。私よりもかわいくて、頭がよくて、みんなに好かれて、素敵な彼氏がいて、他人の彼氏にも好かれてるなんて」


 ――私はそんなふうに思ったことなんて一度もなかった。

 心と自分を比べたこともなかったし、こう言われたところで自分が優れているなんて思わない。

 ふいに腕に痛みが走った。

 心が、私の腕に爪を立てている。

 ぎりぎりと食い込んで、鈍い痛みが増していく。