誰と話しているのだろう……水無君ではないと思う。

 彼の前では心は少しだけ猫を被っているから、苛立ちをぶつけたりしないはずだ。

 盗み聞きはいけないとわかっていても、気になってしまう。

 声は、すぐ傍で聞こえたわけではない。

 少し離れていると思う。

 そうっと、ホールのほうを覗いてみて――少しだけ、驚いた。


「さあ、みんなでクロッケーでもしてみたら?」


 心の前で楽しげな声を発しているのは、恭君だった。

 正直、今の恭君と対峙(たいじ)するのは、少し勇気がいると思う。

 何しろ彼は、普通じゃない。

 証拠に、ずっと不気味に、ひひ、と小さな笑い声を漏らしている。

 だからこそ、心がどうして彼と二人きりで話しているのか気になった。


「ふざけないでよ! 公爵夫人は何をすればいいの!?」


 そんな心の台詞で、先ほどまでの疑問は解消された。

 心は、自分の役割が何をすべきか彼に訊いているのだ。

 恭君や波多君のように、演じれば助かるかもしれないという結論にでも至ったのだろうか。


「そんなに怒らないでよ、やっぱり公爵夫人は(みにく)いなぁ」


 恭君は心を(あざけ)るような口振りだ。