『ハートの女王を処刑しなさい』


 微睡(まどろ)みの中で聞こえたのは、ノイズ混じりのざらついた声が告げる不穏な言葉だった。


「ありす、やっと起きた……」


 何が何だかわからないまま重い(まぶた)を持ち上げると、彼氏である咲真(さくま)の顔が目に飛び込んだ。

 その表情が安心したように少しだけ緩んでいるとわかるのはきっと私くらいだろう。

 それにしても、なんだか頭がぼうっとして気分が悪い。


「咲真……ここは……?」


 咲真の腕に抱かれたまま周囲を見る。

 まずわかったのは、ここは全く見覚えのない場所だということ。

 答えを(あお)るように咲真を見たが、口の前に人差し指を立てるばかりで、望む言葉はもらえなかった。

 ふいにどこからか、ザザッという先ほどのノイズに似た音に続き、いやらしい小さな笑い声が響く。


『ハートの女王は君たちを処刑したがっているからね』