「こ、これは……!?」

 記事の内容は、ソイル王国最東部に位置するピートモス領での開拓作戦の報告だった。
 作戦は無事に成功し、滞っていた森の開拓をようやく進められるようになったという知らせ。
 しかしマーシュが驚いたのはそこではなく、最大の功労者として『ローズマリー・ガーニッシュ』の名前が挙げられていたことだった。
 自分が愚女だと見下し、罵詈雑言の果てに見放した元婚約者の名前が。

「ローズマリーが、最大の功労者だと……!? しかもあのピートモス領の開拓で……」

 ピートモス領は開拓が滞っている土地として有名だ。
 特に危険性が高かったり、厄介な種族の魔物が多く、開拓は長期的なものになると見込まれていた。
 しかしそれを覆しての開拓作戦の成功。
 第一歩をしくじった自分とは正反対に、ローズマリーは華々しいスタートを切ったのだった。
 悔しさのあまり歯を軋ませていると、父のチャイブが諭すように言った。

「逃した魚は、相当大きなものだったようだな」

「くっ……!」

「今貴様の隣にいるのがガーニッシュ伯爵家の娘であれば、此度の貴様の失敗も拭い切れたかもしれないな。開拓のための魔物討伐も順調に進められたことだろう。己の眼識の浅さを悔い改めるといい」

 父はそれだけ言い残すと、慰めの一言もなく部屋を去って行った。
 その背中から怒りと呆れを感じ取り、遠回しに脅しをかけにきたのだとマーシュは悟る。
 此度の失敗を取り返せなければ、家督相続の話はなかったことにするぞという強い脅し。
 なんとしても任された開拓地でのトラブルを解決し、使命を全うしなければならない。
 改めてそう決意する傍ら、父が残していった言葉が頭の中から離れず、マーシュは膝上に拳を叩きつけた。

「……あの愚女がいたところで、何も変わるはずがない。俺は認めないぞ」

 今でも、ローズマリーとの婚約を破棄し、関係を絶ったことが間違いではなかったと、マーシュは強くそう思っている。