ローズマリーの魔法は、あの場にいた全員を見事に魅了した。
 いまだかつて実現できた魔術師がいない、四階位魔法の並列発動。
 その応用による四階位魔法の複合発動で、強敵赤蛇(ヴァーミリオン)を一撃で粉砕した。
 同じく魔法の道を真剣に歩んできた開拓兵たちだからこそ、彼女がいかに卓越したことをしているか実感できるはず。

(これでローズマリーの噂は、すぐに王国全土に広まることになるだろう。開拓兵たちという確かな証人も得られたことだし)

 開拓兵たちについてきてもらった理由は、作戦の補助をしてもらうためだけではない。
 ローズマリーの活躍を伝えてくれる者たちが必要だったからだ。
 開拓兵は皆、元は王国軍で活動をしていた確かな実力者たちで、彼らの言葉ならより説得力があるとディルは考えた。
 そして何より、彼らならローズマリーの凄さを認めてくれるとも思い、開拓作戦についてきてもらったというわけだ。
 事が思惑通りにいきそうで、ディルは人知れず安堵する。
 しかし……

(……ローズマリーを活躍させるためだったとはいえ、これは少し悔しい気もするな)

 自分だけがローズマリーの強さを知っていた。
 その状況を変えたいと思う傍ら、その事実に少し優越感を覚えていたところもあった。
 それが今では、多くの人間がローズマリーという素晴らしい逸材に気付き始め、さらに王国全土にまで広まろうとしている。
 嬉しい反面、悔しいような寂しいような、そんな不思議な感覚をディルは味わっていた。

 それから二週間後、ピートモス領の開拓作戦成功の話が、王国中へ行き渡ることとなる。