「はあっ!」

 ディルは青蛇(セルリアン)の周囲を高速で移動しながら、右手に持った氷の剣で攻撃をしている。
 鮮やかな身のこなしで敵の攻撃を掻い潜り、見惚れるような剣捌きで魔物を斬るその姿は、魔術師というより騎士の様相に近いだろうか。
 ディルは魔法だけではなく剣術も嗜んでいるそうで、魔物との戦闘では魔法と剣術を巧みに合わせて使う。
 パッと見では細身に見えるが、筋力鍛錬も抜かりなく積んでいて、生来の身体能力もかなり高い。
 そのため身体強化魔法の恩恵も最大限受けることができ、ディルは人智を超越した動きを実現することができる。

「せやっ!」

 ディルはその身体能力を生かし、青蛇(セルリアン)の懐に潜り込んだ。
 何度も斬りつけて魔装が綻び始めた腹部に、氷の剣を突き込む。
 その一撃は青蛇(セルリアン)の魔装と鱗を貫き、真紅の鮮血を散らした。
 瞬間、傷口から凍てつく魔素が流し込まれて、青蛇(セルリアン)の体が凍りついていく。
 やがて全身が凍結されると、パキッと氷が割れて、青蛇(セルリアン)の体が崩れ落ちた。

「ふぅ、終わったか……」

 青蛇(セルリアン)の絶命を確認し、ディルが短く息を吐く。
 すると静まり返っていた周りの開拓兵たちは、少し遅れて状況を呑み込み、突然ワッと歓声を上げた。

「お二人が赤蛇(ヴァーミリオン)青蛇(セルリアン)を倒したぞ!」

「これで森の開拓が進められる!」

 その声を聞いて、私も改めて安堵の息を吐いた。
 開拓兵たちに被害が及んだ様子はなく、怪我人は無し。
 戦闘の余波による森への被害も最小限に抑えられた。
 作戦はこれ以上ないほどの大成功と言えるだろう。
 その時、ディルがこちらに気が付いて歩み寄ってきた。

「無事かい、ローズマリー」