マーシュ様が怒りの眼差しを彼に向ける。

「……ディル殿下、なぜあなたがこの愚女を庇うのでしょうか?」

 先ほどの『くだらない』という発言が、私を庇うものだと思われてしまったらしい。
 けど、私にもそう聞こえてしまった。
 ディルはどうして私のことを……

「僕は別にローズマリーを庇ったつもりはないよ。ただ事実を口にしただけだ」

「事実?」

「彼女に実力で敵わないからって、皆の前で婚約破棄して恥をかかせたり、周りを味方につけて袋叩きにしたり、本当になんてくだらないんだろうって思ってね」

「な、なんだと……!」

 マーシュ様は憤るように顔をしかめる。
 一方で私は、ディルがあまりにも遠慮なく言い放っていくので、内心でハラハラしていた。
 さらにそれが続く。

「花嫁修業が足りないからなんて下手な口実まで用意してさ。回りくどい言い方をせず、はっきり告げればいいじゃないか。『自分よりも才能があるのが気に食わないから婚約破棄する』とね」

「…………」

「彼女の実力は君だってよく知っているはずだ。入学以来、首席の座を独占し続けた例を見ない逸材。長い歴史のあるエルブ魔法学校において、歴代でも指折りの成績で卒業を果たした優秀な魔術師」

 ディルは呆れた様子で肩をすくめる。

「君はそんな彼女のことを素直に認めることができなかった。格下の婚約者に負けたという事実を受け入れることができなかった。だから親の爵位を笠に着て、大勢の前で婚約を破棄することで自分の優位性を保とうとしたんだろう? そこがくだらないって僕は言っているんだ」