するとディルは、今回の采配の理由について、さらに一つ補足してくれた。

「まあ、君の存在を世に知らしめるための機会でもあるから、できれば単独での活躍を僕は望むけどね」

「えっ? 私の存在?」

「無名貴族出身の伯爵令嬢が、王子の婚約者になることを反対している者たちは多い。だからこそこういう場面で、ローズマリーの価値を示しておけば、口うるさく言ってくる連中も少なくなるだろ」

「そ、そこまで考えてたんだ」

 確かに私たちの結婚に反対する人たちは多いと聞く。
 主に才能に恵まれたディルの血が濁ることを懸念している人がほとんどだとか。
 ディルは王家の人間として、そして優れた才覚の持ち主として、相応しい人物と結ばれて子孫繁栄に努めるべきと多くの人が考えている。
 無名貴族出身の伯爵令嬢はお呼びではないらしい。
 けど開拓作戦で私が成果をあげて、王国の発展に貢献すれば、魔術師としての実力も示すことができて、王子の婚約者として相応しいと認めてもらえる可能性が上がる。

 ディルはそこまで計算して、私一人に戦いを任せようとしているんだ。
 その期待には、彼の婚約者としてぜひ応えなければならない。
 と、今一度決心して戦いにやる気をみなぎらせていると、不意にディルの声が微かに耳を打った。

「…………心配しなくても、もしもの時は僕が絶対に守るよ」

「んっ? 何か言った?」

「いいや別に」

 ディルはまたスンとした表情になって、窓の外に目を戻してしまった。
 作戦直前でありながら冷静さを崩さない彼に感心し、それを見習って私も心を落ち着けることにしたのだった。