(……そうか。いったい何をやっているんだ、私は)

 ディルは自分の憧れだった。
 魔術師として理想の完成形だった。
 そんな彼が名も知らぬ女性魔術師に負けて、まるで自分の理想を否定されたような気持ちになった。
 それが悔しくて、否定し返してやりたいと思っていたけれど、一番悔しい気持ちになっているのは本人のディルに決まっているんだ。
 だというのに、ディルにこんなことまで言わせてしまって、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
 対してディルは、今度は開拓兵たちの方に視線を向けて、今一度語気を強めて言った。

「いきなり受け入れろっていうのも難しい話だろうけど、どうかローズマリーが開拓作戦に参加することを……仲間になることを認めてあげてほしい。きっと彼女は、僕たちの力になってくれるはずだから」

 先ほどの模擬戦でローズマリーの強さは証明された。
 ゆえに開拓兵たちの中に反対の声を上げる者はおらず、拍手という形でローズマリーの参入を認めていた。
 遅れてサイプレスは、ローズマリーに対して頭を下げる。

「実力を疑ってしまい、大変申し訳ございませんでした」

「い、いえ、そんな……」

「あなたは確かに実力のある魔術師です。凄まじい度胸も持ち合わせた方だ。私のほうこそ実力不足であることと、眼識の浅さを改めて痛感しました」

 心からの謝罪と本音。
 一方的に疑ってしまったため、何を言われても仕方がないと覚悟していたけれど……

「私こそ、余所者が突然お邪魔して、皆さんを混乱させてしまったと思います。ですのでこうして実力を示す機会をいただけて、私としてはすごく感謝しています」

 ローズマリーは温かい言葉を返してくれる。
 続けて彼女は、逆にこちらに頭を下げてきて、改まった様子で挨拶をしてきた。

「ご迷惑をおかけしてしまうかもしれませんが、精一杯開拓作戦に尽力させていただけたらと思います。これからよろしくお願いいたします」

 こうしてローズマリーは開拓兵たちに受け入れられて、無事に作戦に参加することが認められたのだった。