これならば確かに、ディルが負けたとしても不思議ではないと思えてしまう。
 絶望して立ち尽くすサイプレスに、不意にディルが歩み寄った。

「サイプレス。君も相当な修練を積んだ一流の魔術師だ。だからこそわかるだろう。ローズマリーの底なしの強さが」

「…………」

 サイプレスは密かに唇を噛み締める。
 負けたことへのショックより、ディルの口から改めてローズマリーを賞賛する言葉が出てきて、一層の悔しさが湧いてきた。
 そしてそれを、今は納得してしまっている自分にも、ひどく苛立ちを覚えてしまう。
 その気持ちを悟ったように、ディルが穏やかな声音で続けた。

「前代未聞の女性魔術師の参入に、納得ができないのはよくわかる。でも女性だからといって、魔術師の才能がないと決めつけたり、見下したりするのは間違っているんだ。それを僕はローズマリーに教えてもらった」

 ディルはローズマリーの方を一瞥すると、サイプレスに視線を戻して言う。

「女性でも魔術師として活躍ができる。魔術師になるのに性別なんて関係ない。必要なのは魔法に対する“情熱”と、それに伴う“努力”だけ。僕がローズマリーに勝てなかったのは、単純にそれらが足りていなかったってだけの話なんだ。認めたくはないけどね」

 その時、ディルは僅かに俯いて、顔に翳りを作った。
 そこに計り知れぬ悔しさのようなものを感じ取って、サイプレスは静かに悟る。