サイプレスは驚愕し、思わず言葉を失くしてしまう。
 この時点で彼は、ローズマリーが何をやっていたのかを理解して、その事実に畏怖していた。

「普段は無意識で全面的に張っている魔装を、魔素を一点に集中させて局所的に張る。そうすることで強度は格段に向上し、三階位程度の魔法なら完全に防ぎ切ることができます。まるで魔法を無効化しているように見えるほどに」

「そんな、馬鹿げたことを……」

 魔素の鎧というより、もはやそれは魔素の盾。
 ローズマリーが魔法を無効化しているように見えたのは、その強固な盾で魔法を防ぎ続けていたからだ。
 周りでそれを聞いていた開拓兵たちも、彼女のその技量の高さに唖然としていた。

(理論上であれば、確かにそれは可能だ。魔素の扱いに長けている者なら、一点に集中させて強固な盾にすることもできるだろう)

 人が一度に操れる魔素の量にも限度があるので、魔装の強度を高めるのならそれが最善の手段と言える。
 だが、魔装の形を変えて、それを常に維持し続けるなど、並の集中力では決してできない。
 たとえ思いついたとしても、試す気にもならないほど人間離れした技術だ。
 だからサイプレスは種明かしをされるまで、その事実に気付くことができなかった。
 何より魔装を局所的に張るのはリスクが高い。攻撃が来る位置がわかっても、操作が追いつかず生身のまま攻撃を受けることになる可能性もある。
 魔素の操作にこの上ないほどの自信があり、何よりも肝が据わっている証拠だ。

(そんな机上の空論を、実現できる魔術師がいるのか……! これが、現代の至宝と名高いディル・マリナード王子を、次席に留め続けた首席の実力……)