「あのサイプレスが、負けた……?」

「王国軍でも序列五位の魔術師なのに」

「しかも魔法を一度も使わずに……」

 模擬戦の敗者となったサイプレスは、怒りと疑問を同時に抱き、思わず口からこぼしてしまう。

「魔法を、無効化しているのか……!?」

 種明かしを求めたわけではない。
 けれどその呟きを聞いたローズマリーは、親切にもサイプレスに明かした。

「そこまで大層なことはしていません。私はただ魔装を、表面的にではなく局所的に張っていただけです」

「きょ、局所的?」

 言葉の意味がわからず放心する。
 その疑念を感じ取ったように、ローズマリーはさらに説明を続けた。

「魔装は術者の身を守るための魔素の鎧で、基本的に意識せずに展開させた場合は、全身を満遍なく纏うために全面的に張ることになります。しかしそうすると、魔装は薄くて脆いものになり、容易に削られて修復を余儀なくされます」

「その修復に魔素を消費させて、魔素の枯渇を狙うのが、一般的な模擬戦の形のはず。何もおかしいことは……」

「ですので私は、攻撃を受ける箇所一点に魔素を集中させて、より強固な魔装を作ったんです」

「魔素を、一点に集中だと……?」