ディルの第一印象は最悪だった。

『ローズマリー! 次の試験では絶対に僕が勝つ!』

 エルブ英才魔法学校に入学したその日のこと。
 いきなり呼び止めてきて、一方的にこんなことを言って来たのが当時十二歳のディルだった。
 聞けば第二王子様ということらしく、幼い頃から神童と呼ばれている逸材だそうだ。
 首席で入学した私に新入生代表の挨拶を取られて、気に食わなかったということらしい。
 下手に問題を起こさないように、なるべく関わり合いにならないようにしようと思った。
 しかしディルは、いつも何かにつけて私に噛みついてきた。

『次の中間試験で勝負だ!』

『魔法訓練の課題、絶対に僕が先に終わらせる!』

『五十四期生の首席の座は渡さない。僕が一番になってみせる!』

 そして勝負に負けると、毎回のように捨て台詞を吐いて去っていった。
 それ以外にも、廊下ですれ違う度に憎まれ口を叩いてきたし、図書館で自習をしている時も『勝負勝負』と言って邪魔をしてきたし。
 次第に私も、こんな失礼な奴に大好きな魔法で負けてなるものかと気持ちを燃やすようになっていた。

『あんたなんかに、絶対に負けないから……!』

 そんな私たちの戦いは入学から六年間続き、いつしか私は彼のことを好敵手と認めるようになっていた。