「だとしてもだ。私に一言もなく独断で婚約破棄をするなど言語道断だ。ガーニッシュ伯爵家への慰謝料は貴様の私財から賄わせてもらうぞ。せいぜい開拓事業で成果をあげて懐を暖め直すことだな」

「…………」

 父は査定表だけ置くと、早々に部屋を後にした。
 マーシュとパチュリーの二人だけが残された部屋に、一瞬の静寂が訪れる。
 その中でマーシュは密かに唇を噛み締めていると、パチュリーが慰めにも似た言葉をかけた。

「マーシュ様は決して間違ってなどおりません。わたくしだけはあなた様の味方であり続けます」

「……ありがとうパチュリー」

 そう、自分は間違ってなどいるはずがない。
 婚約破棄は正しい選択だったのだ。
 あの女に使い道などあるわけがないのだから。
 何より……

(夫を立てることもできない愚かな花嫁など、俺の隣には必要ない……!) 

 マーシュは父が置いていった査定表を手に取ると、残留していた不安ごと消し去るように強く握りつぶした。