「聞いたぞ、ガーニッシュ家の娘と婚約を解消したそうだな。いったいどういうことだ?」

「あの女が自分の花嫁に相応しくないと思っただけです。ウィザー家の侯爵夫人となる器が、あの女には微塵もなかった」

 婚約破棄の話は、マーシュが独断で進めたものだ。
 そのため父は屋敷に帰ってきてから初めてその話を聞き、部屋に飛んできたというわけである。
 元々、マーシュとローズマリーを婚約者同士にしたのは、ガーニッシュ伯爵領に眠っている鉱山が目的だった。
 そこまで貴重な鉱石が採れるわけではないが、年々僅かながらその鉱石が高騰していることを受けて、先んじてその鉱脈を押さえておこうという魂胆だった。
 しかしその当てもすでに別口で見つけているため、それについては咎めるつもりはないけれど……

「ガーニッシュ伯爵家とはこの際切れても問題はない。だがあの伯爵令嬢は、腐ってもあのエルブ英才魔法学校を首席で卒業できる実力があったのだぞ。使い道はいくらでもあっただろう」

「その首席卒業の名誉もただの偶然に過ぎません。他の生徒たちが家督の責務で多忙な中、あの女は一人だけ花嫁修行を放って魔法に注力していたのです。抜け駆け以外の何物でもない」

 マーシュはここにきても、ローズマリーの力を認めることはしなかった。
 首席での卒業を叶えたのは、あくまで他の生徒たちが多忙だったからと。
 自分も含めて、他の生徒たちが魔法に注力していたら、あの女に遅れをとることなんて絶対になかったと確信している。