「それにしても、ディル王子も見る目がありませんわね。あのような女を娶るなど」

「あぁ、まったくだ。どうせあの女の愚行に耐えかねて、すぐに婚約を破棄することだろう」

 周囲の人間たちからの反対も相まって、王子に見限られるのも時間の問題だ。
 卒業パーティーでもあれほど非難の嵐だったのに、その女が王子の婚約者として認められるはずがない。

(夫となるこの俺を差し置いて首席で卒業しおって、せいぜい束の間の安息を楽しんでおけ)

 マーシュは勝ち誇ったような微笑をたたえて、また一口美酒を飲んだのだった。
 その時……

「おい、マーシュ」

「……父上」

 仕事で遠方に出ていた父――チャイブ・ウィザーが屋敷に戻ってきて、マーシュの部屋を訪ねてきた。
 マーシュが魔法学校を卒業して屋敷に帰ってきてからずっと不在だったため、久々の親子再会となる。
 ただ、父の顔は険しいものだった。