「マーシュ様、わたくしが持ってまいりましたお酒は気に入っていただけましたか?」

「あぁ、実に格別だ」

 ソイル王国の西部に位置するウィザー侯爵領。
 その屋敷の自室で、マーシュ・ウィザーは婚約者のパチュリー・ユイルと共に美酒に酔いしれていた。

 マーシュはエルブ英才魔法学校の卒業パーティーの後、ウィザー侯爵領の屋敷に戻ってきた。
 本格的に跡継ぎとして領地経営と開拓事業を担うためである。
 ただ、今はまだ領主の父が健在のため、彼は開拓事業の一端を任されるのみとなった。
 そして実際に仕事を始めるまでまだ時間があり、現在はこうして屋敷でのんびりと過ごしている。

「こうしてゆっくりとご一緒できる時間が残り少ないと思うと、わたくしはとても寂しく思いますわ」

「なに、任されているのは開拓事業の一端のみだ。俺ならばすぐに役目を終えられる」

「はい。わたくしも花嫁としてマーシュ様のお手伝いを精一杯させていただけたらと思っております。改めて、あの貧乏伯爵家の娘ではなく、わたくしを花嫁として選んでいただき感謝いたします」

 同じソファに座りながら、二人は身を寄せ合う。
 献身的に支えてくれる、眉目秀麗な新しい花嫁。
 魔法ばかりにうつつを抜かし、あまつさえ夫の立場を陥れる愚女とは大違いだ。
 やはりローズマリー・ガーニッシュとの婚約を破棄して正解だったと、マーシュは改めて思う。