するとローズマリーが何やら緊張しているように見えたので、気遣いのつもりで尋ねた。

「何を固くなっているのさ。僕に挨拶するのは違和感でもあるのかな?」

「そ、そういうわけじゃないけど……」

「違和感があるなら、エルブ魔法学校の廊下みたいに、睨みつけてくるだけでもいいんだよ」

「私から睨んでたみたいに言わないでよ! ディルが睨んでくるから私も睨み返してただけでしょ!」

 少しふくれっ面になった彼女を見て、ディルは内心で喜びを噛み締める。

(やっぱり、今日も可愛らしい)

 それからローズマリーと別れて、廊下を曲がった瞬間、ディルは壁に寄りかかって至福のため息をこぼした。

(この屋敷は、あまりにも最高すぎる……!)

 こうして好きな人と毎日顔を合わせて話しができるなんて、夢でも見ているような気分だ。
 しかしディルは、一抹の不安を抱いて眉を寄せる。
 いつでも好きな人と出会えるというのは幸せなことに違いないが、その度に頬がだらしなく緩みそうになるのを耐えなければいけないと考えると……

 なかなか過酷な日々にもなりそうだと、ディルは複雑なため息もこぼしたのだった。