それをディルに見抜かれてしまう。

「何を固くなっているのさ。僕に挨拶するのは違和感でもあるのかな?」

「そ、そういうわけじゃないけど……」

 いや、それも一応合っているのかな。
 私たちは知り合ってから随分経つのに、思い返せば一度も「おはよう」を言い合ったことがないから。

「違和感があるなら、エルブ魔法学校の廊下みたいに、睨みつけてくるだけでもいいんだよ」

「私から睨んでたみたいに言わないでよ! ディルが睨んでくるから私も睨み返してただけでしょ!」

 そもそも最初に勝負とか仕掛けてきたのはそっちのほうじゃん。
 と思って言い返すと、ディルは不意に微笑をたたえた。

「そういう強気なほうが君らしいよ。じゃあ、用があったら改めて声をかけるから」

 ディルはそう言って廊下を歩いていった。
 なんかディルのほうが余裕がある感じがして少し悔しい。
 でもおかげで気まずさがなくなって、私の心がまた軽くなった。
 これなら明日からは、普通に「おはよう」を言えそうな気がする。
 晴れ晴れとした気持ちになり、私は改めて書斎へと向かうことにした。
 屋敷の一階の最奥の部屋がそれにあたり、私は高揚しながら書斎へと入る。

「わぁぁ……!」

 そこには魔導書がいっぱい置かれていた。