再び走り出した馬車の中。
 ディルは窓の外に目を向けながら、先ほどの戦いの光景を思い出していた。
 行商団の人たちに大事がなかったのは何よりだ。
 ついでに行商人たちとの繋がりもできて、このコネクションは今後必ず役に立つはず。
 と、成果に関しては満足しているけれど、ローズマリーにまた負けてしまったのは悔しいと思う。
 同時に彼女の魔術師としての凄さに、改めて打ちのめされていた。

(毎度のことだけど、本当にローズマリーは無名貴族出身の令嬢なのか疑わしくなってくる)

 魔法は実用性と習得難度によって階位が設定される。
 そしてローズマリーが使っていた四階位魔法は、習得に血筋や才能まで絡んでくるほどの超高等魔法だ。
 どれだけ時間を費やしたとしても習得できない魔法ばかりで、本来ガーニッシュ伯爵家の血に四階位の魔法を習得できるほどの才覚は備わっていないはず。
 ではなぜ、ローズマリーが四階位の魔法を扱えるのか。
 それはただ純粋に、使えるようになるまで練習をしたから。

 魔法が大好きで、使いたいと思った魔法はできるようになるまで練習をする。
 余計なことは考えず、寝る間も惜しんでひたすらにその魔法のことだけを考え続ける。
 簡単なことのようで、とてつもなく難しいこと。

(ローズマリーは“努力のみ”で、血筋や才能の壁を乗り越えたということだ)

 そしておそらく四階位魔法の並列発動も、できるまで練習をしただけなんだろう。
 誰もが辛く苦しいものだと思っている魔法の練習を、何よりも楽しい遊びとして捉えている彼女だからこそ成し得た偉業。
 他の魔術師とは明らかに感性が違う。