魔法の並列発動は 右手で計算問題を解きながら、左手で文章問題を解くようなものと偉い魔術師が言ったそうだ。
 四階位魔法の並列発動は、その問題が少し難しくなっただけだと私は思っている。
 あとは慣れの話なので、別に常人離れした技術ってわけでもない気がするんだけど……

「改めて君との差を見せつけられたような気がするよ。認めたくはないけどね」

「……とりあえずそれは褒め言葉として受け取っておくよ。ていうかそれを言うならディルだって、魔物に襲われてる行商団を見ても、顔色一つ変えずに落ち着いて行動してたじゃん。すごい冷静さと判断力でそっちの方が怖いと思ったよ。さすがは神童の王子様」

「……でも、勝てなかった」

「えっ?」

「並列発動のことだけじゃない。倒した黒狼(ヘルウルフ)の数も、君は四体で、僕は三体だ」

 そう言われて、私は一瞬だけ固まってしまう。
 すぐにその言葉の意味を理解して、呆れるというより驚いてしまった。

「まさか、今の戦いでも私と競ってたの!?」

「僕は常に君に勝つつもりで過ごしているんだ。突発的な魔物討伐の場面でもね。それをよく胆に銘じておくといい」

 ディルは挑戦的な視線をこちらに向けてそう言ってきた。
 どれだけ私に勝ちたいのか、この王子様は。
 あまりの負けず嫌いっぷりに、私は思わず呆れた笑みをこぼしてしまった。