見るとディルの方もちょうど同じタイミングで片付いたらしく、三体の黒狼(ヘルウルフ)が目の前で氷漬けにされている。

「あ、ありがとうございます魔術師様! なんとお礼を言ったらいいか……」

「今後はきちんと護衛の魔術師をつけるようにするんだね」

 見たところ重大な怪我を負っている人もいないみたいだし、何事もなく終わってよかった。
 眠らせた黒狼(ヘルウルフ)を、ディルが代わりに処理してくれて、行商団に感謝されながら私たちは馬車へと戻っていった。
 その途中、ディルがやや呆れた様子で、不意に囁いてくる。

「四階位魔法の並列発動か。相変わらずとんでもないことを平然とやってのけるね、ローズマリーは」

「えっ、そう?」

「僕は身体強化魔法の【超人的な時間(アブ・ノーマル)】と、簡易的な二階位魔法の並列発動が限界だっていうのに」

 魔法は実用性と習得難度によって、それぞれ『階位』というものが設定される。
 最も初歩的で簡単な一階位魔法、適切な指導と数ヶ月の訓練によって習得できる二階位魔法、習得に一年近くの訓練を要する三階位魔法。
 二階位以上の魔法が戦闘において実用的であるとされ、三階位魔法を一つでも習得できているかどうかが、一流か否かを分ける線引きになっているのだ。
 そして私がさっき使った二つの魔法は、さらにその上の四階位魔法。

「高い階位の魔法ほど、発動には多大な集中力と脳の処理能力が必要になる。四階位の魔法は発動だけでも困難なのに、それを二つ同時に発動と維持をさせるなんて……正直常人離れしすぎていて、不気味にすら感じてくるよ」

「人を怪物みたいに言わないでよ!」