いやでも、思えば前々からこうなる傾向は示されていたのか。
 マーシュ様と私は特別に仲がよかったわけではない。
 あくまで私たちは政略的に婚約を結んだ関係。
 学校内でも接点はほとんどなく、すれ違っても私が一応挨拶をする程度で、向こうは徹底して無視を貫いてきた。
 その程度の希薄な間柄。
 何より私は、何を置いても大好きな魔法を優先して過ごしてきた。
 だからいつマーシュ様に愛想を尽かされてしまっても、おかしくはなかったのかもしれない。

 ――もっと、マーシュ様と仲良くしていたら。
 そんな後悔が今になって沸々と湧いてくる。
 婚約者として積極的に接して、親密な関係を築けていたとしたら、もしかしたら婚約を破棄されることはなかったかもしれない。
 むしろそれこそが、マーシュ様と同じ学校に入学した私の、婚約者としての責務だったんだ。
 最新鋭の設備で魔法を学べるからと、両親に懇願して王立エルブ英才魔法学校に入学させてもらったけど、私はやるべきことを間違えてしまったのかもしれない。

「そもそも貴様、よくもまあ平然と卒業パーティーに顔を出せたものだな」

「えっ?」

「俺を含め、他の者たちは家督の責務で勉学に勤しみ、満足に魔法の修業ができていなかった。一方で貴様は婚約者としての責務を放り、首席の座を攫っていった。誰も貴様の力など認めていない。貴様はただ他の者たちが多忙な中、抜け駆けをして首席になっただけに過ぎないのだ!」

「ぬ、抜け駆けなんて、私は別にそんなつもりは……」

 私はただ、大好きな魔法に熱中していただけなのに。
 別に首席の座だって狙ってとったわけではないし、婚約者としての責務だってちゃんと果たしてきた。
 それなのにこんな言われようをされるなんて……
 そこで私は、遅まきながら察する。
 周りの生徒たちからも、マーシュ様と同じような冷たい視線を向けられていることに。