「きゃっ!」

 柔らかい感触とほのかに爽やかな香りを間近で感じる。
 咄嗟に私は起き上がって、髪を直しながらディルに謝った。

「ご、ごめん、ディル……!」

「……いいよ、別に。ローズマリーが悪いわけじゃないし」

 少し焦ってしまった私と違って、ディルは欠片も戸惑った様子を見せない。
 相変わらずのその冷静さに感心していると、ディルは窓の外に訝しい目を向けた。

「それにしてもどうしたんだろうね? 何か問題でもあったのかな」

 と、その疑問を聞きつけたかのように、焦った様子で御者さんが馬車の中に顔を覗かせた。

「も、申し訳ございませんディル様! お怪我はございませんか?」

「問題ないよ。ところで何があったのかな?」

「進行先に行商団と思われる馬車が停まっており、その者たちが魔物に襲われているようです」

「なんだって?」

 ディルはすかさず馬車から降りる。
 私もそれに続いて、進行先に視線を向けると、確かに遠方に行商団と思われる集団と魔物たちの姿が見えた。