体を前のめりにしてディルに近づき、確かめるように問いかける。

「い、今、書斎って言った!?」

「そ、そう言ったけど」

「もしかして、魔導書とか置いてあったりする!?」

「魔導書? あぁ、もちろんあるよ。というか書斎に所蔵されているほとんどの書物が魔導書なんだ。昔、魔術師として成長するために、目についた魔導書を片っ端から収集していた時期があったから」

「……」

 魔導書。
 魔法の習得方法を記した教本。
 体内の魔素を具体的に別の性質や物質に変換するイメージを持てなければ、魔法は発動ができない。
 ゆえに魔法習得にはイメージ修行が欠かせず、その修行方法や発動感覚などを先駆者たちが本に記して残している。
 それこそが魔導書。またの名を『魔法先導書』。

 私はそんな魔導書が好きだ。
 いや、好きなんて言葉で片付けることができないくらい大好きだ。
 魔導書は、まだ知らない新しい魔法に出会わせてくれる至福の書物。
 見るだけでもわくわくさせてくれる贅沢なおもちゃ箱。
 そんな魔導書が、広めの書斎に大量に所蔵されている。
 そう考えただけで気分が高揚し、思わず私は馬車の中で立ち上がってしまいそうになった。
 それをぐっと堪えて、私はディルに精一杯の懇願をする。

「お願いディル、それ読ませて!」