一方で私は、彼が素直なところを見せたことに密かに驚く。
 昔は頑固で悪ガキだった印象が強いけど、今はもう変な意地を張ることをやめたのかな。
 まあ、お互いに大人になったことだしね。
 と、その時私は、“大人”という単語からある重要なことを思い出して、再びディルに問いかけた。

「そ、そういえばさ……その屋敷って広い?」

「えっ? それって重要なこと?」

「いやだって、私たちってこれからその屋敷で一緒に暮らすわけでしょ? あんまり狭いとさ、ほら……」

「……まあ、個人の生活空間は保証されていないとね」

 言葉足らずかと思ったけど、わかってもらえたみたいでよかった。
 夫婦になるとはいえ、それはあくまでも形だけ。
 私たちは本当に愛し合っているわけじゃないし、いまだにライバル関係が続いている仲だ。
 だから大人の男女の線引きとして、部屋がきちんと分かれているか確かめておこうと思った。
 いや、大人でも子供でも、男女なら同じ部屋で寝起きや着替えをするわけにはいかないよね。

「心配しなくても、屋敷はそれなりに広いから個人の部屋もちゃんと用意してあるよ。少なくとも君の生家の屋敷よりかは断然広いんじゃないかな」

「一言余計なんですけど!」

「部屋数も余っているくらいだし、使用人たちが住む宿舎も敷地内にある。それに広めの“書斎”が入るくらい屋敷は大きいから……」

「えっ?」

 私は、とても大事な言葉を聞き逃さなかった。