(この国……いや、世界的に見ても、女性蔑視の価値観があまりにも強く根付いてしまっている)

 男尊女卑で男を立てる時代。
 そう言われるほどに男性と女性には圧倒的に立場の差がある。
 どこを見ても男性優位の情勢が多く、特に政治と魔術師界隈ではその傾向が顕著に窺える。
 此度の王立エルブ英才魔法学校の卒業パーティーを見てもわかる通り、女性で首席卒業を果たしたローズマリーに非難の声が殺到していた。
 あれはあまりにもおかしいと、ディルはいまだに新鮮な怒りを胸に感じる。

(いや、あるいは僕も……)

 ローズマリーと出会っていなければ、彼らと同じことをしていたかもしれない。
 それ以前に高慢だった性格も直っていなかっただろうし、いまだに周りに高圧的な態度をとっていたことだろう。
 ローズマリーのおかげで、ディルは変わることができて、現代の曲がった思想にも気が付くことができた。
 だから他の人たちもきっと……とディルは思う。

(今回僕が任された開拓事業はとても大きなものだ。そこでローズマリーが目に見えた功績を残せば、自ずと彼女は民衆に認知されるようになる)

 そしてローズマリーの圧倒的な力と存在を知って、凝り固まった価値観を変えてくれるかもしれない。
 女性に魔術師は務まらないという考えは、明らかに間違っていると。
 そうすれば彼女が気兼ねなく大好きな魔法に打ち込める世界が、遠くないうちにやってくるに違いない。

(そのためにも僕が、彼女に活躍の機会をたくさん作ってあげるんだ)

 大好きな人が、大好きなことに熱中できる、そんな世界を作るために。
 ディルは人知れず夜空を見上げて、大きな決意を抱いたのだった。