そんな彼女の背中を追い続けて、早くも三年が経過。
 ディルはいつしか、彼女に恋心を抱くようになっていた。
 周りの目も顧みず、ひたすらに好きなことに打ち込む純真さ。
 大好きな魔法を満面の笑みで楽しむ可愛らしい姿。
 それらに心を奪われて、ディルは初めて人を好きになった。

 だからディルは、いつかローズマリーを追い越したその時に、この気持ちを伝えようと思った。
 相手には婚約者がいるから、決して自分の元には来ないとわかってはいた。
 それでも思いの丈だけでもぶつけようと考えて、そのために彼はますます修行に励んだ。
 高慢だった性格も気が付けば丸くなっていて、目標を見つけたことで彼の人生は一層色づいた。
 しかし、その願いも叶わず、早くも卒業の時。
 最後の卒業試験でもローズマリーを追い抜くことができなかったが、ディルの気持ちは変わらないままだった。

『僕たちの勝負はまだ終わっていない。勝ち逃げなんて絶対にさせないからな』

 彼にとってこの言葉は、ある種の告白のようなもの。
 まだ諦めてはいないという意思表示。
 いつか必ず追い越して愛を伝えるという強い覚悟。
 図らずもそんな彼女との結婚が叶うことになったが、まだ本心は伝えないようにしようと思っている。
 やはりこの気持ちは、ローズマリーを追い越して、初めて白星を掴んだその時に告白しようと。

 ディルは好きというその一言を伝えるために、愛するローズマリーの背中を追い続けていくと決めたのだった。



 帰路を歩く中、ディルは改めてローズマリーへの想いと向き合う。
 やがて王都のシンボルであり、ディルの生家でもある王宮が見えてきて、それを眺めながら密かに思った。