魔法とは、体内に宿されている魔素を変換して引き起こす“超常的な現象”のこと。
 想像力によって魔素をあらゆる性質や物質に変換し、火を出したり雷を落としたりできる。
 そしてディルは、通常であれば血の滲むような修練を経て習得するはずの魔法も、才能のみで即習得できた。
 どれだけ魔素消費の激しい魔法も、莫大な魔素量のおかげで連続発動ができた。
 生まれながらに現役魔術師を凌駕する逸材。

 そんなディルが物心をつく頃には、すっかり王家の子息らしく自信にも満ち溢れていた。
 現国王の父と、歳の離れた兄からも多大な期待を寄せられて、自分が特別だと信じて疑わなかった。
 それが災いしたせいか、当時の彼は少し自惚れていた。
 周囲にも高圧的な態度を取り、子供ながらに我儘をぶち撒け、思い通りにならなければすぐに誰かに怒りをぶつける。
 自分を中心に世界が回っていると信じていて、そんなディルを周りの人間は咎めることができなかった。
 それらの横暴が許されるほどに、ディルの才能は光り輝いていたから。

 しかし、そんな彼の心を、初めて打ち砕く人物が現れた。

『王立エルブ英才魔法学校、第五十四期生、新入生代表――首席入学者ローズマリー・ガーニッシュ』

 名門の魔法学校の入学式の日。
 ディルは入学試験にて、首席の座をものにしたと信じて疑っていなかった。
 周りの新入生たちも噂の神童の名が呼ばれると思っている中、耳を打ったのはまるで違う人物の名前だった。
 特に魔術師の家系というわけでもない、貧乏伯爵家の一介の令嬢。
 ディルは初めて自尊心をへし折られた。

『ローズマリー、絶対に許さない!』