今一度彼の頭から足先まで視線を動かして観察する。
 輝くような銀髪に宝石のような緋色の眼。
 女性も顔負けの白魚のような美肌に、細長くて綺麗なシルエット。
 さすがは歴代の王子の中でも突出して端麗な容姿を持ち合わせた美男と噂されているだけのことはある。

 ただ私は別に、結婚相手の容姿にこだわりがあるわけじゃない。
 むしろ相手の容姿が整っていることで生じる弊害の方を危惧してしまう。
 ディルはその美しさと格式の高さから、数多くの令嬢たちから想いを寄せられている。
 そんな彼と婚約者関係になったら、令嬢たちから攻撃的な視線を浴びることになるのは必至だ。
 それに関しては非常に不安ではあるけど……

「実家のためっていう理由もあるし、私も別に抵抗はないかなぁ。違和感はさすがにあるけどね」

 これといって意中の相手もいるわけじゃないし。
 まあ、年頃の乙女が意中の相手一人もいない方が問題っちゃ問題な気がするけど。
 するとディルは肩をすくめて短くまとめてくれた。

「なら、この婚約は成立ってことでいいね。僕はローズマリーの実家を助ける。ローズマリーは僕の領地開拓に手を貸す。いわばそういう取り引きだ」

「取り引き、か……」

 確かにその大義名分があれば、ディルと婚約するという違和感も多少は拭える気がする。
 これは婚約ではなく、取り引きだと考えるんだ。
 私は深呼吸をして気持ちを落ち着かせると、改めて自分の中で折り合いをつけてからディルに頷きを返した。

「……うん、わかった。その条件で婚約しよう。まあ期待通りの活躍ができるかはわからないけどね」

「魔法学校の成績で僕に勝っておいてよく言うよ、まったく」