微笑みながら返すと、ディルは一層頬を赤くして顔を背けてしまった。
 あの常に冷静で落ち着いた雰囲気を貫いてきたディルが、私の一言一句で戸惑っている。
 こんなに照れているところを見たのは初めてだ。
 ちょっと可愛い。
 と、そこで私は遅れて、あることに気が付いた。

「あっ、でもさ、お互いが好きってことはわかったけど、私たちってもうとっくに婚約者同士だよね。気持ちを伝え合ったけど、別に今までと何も関係は変わらないのか」

「……そうだね。僕たちは恋仲になるよりも先に、婚約というゴールにすでに辿り着いている。だから何も関係は変わらないよ。僕たちは婚約者同士であり、ライバル同士のままだ」

 婚約を取り引きという形で成立させたその日も、同じことを言っていたなと思い出す。
 ただそうなると、関係性が新しく進展するということはまったくないのか。
 せっかく気持ちを告白したのに、それだとなんだか少し寂しい。
 と、思っていたけど……

「でも、お互いの気持ちを知れたからこそ、できることだってある」

「えっ?」

 その時――
 右手の甲に、柔らかくて温かい感触が触れた。
 気が付けば、目の前ではディルが膝をついていて、私の手を取って甲に唇を触れさせていた。
 突然のことに呆然とする中、ディルは上目遣いになりながら爽やかな笑みを浮かべる。