「四階位魔法の三並列発動。あの土壇場で未知の技術を会得するなんて、誰にも真似なんかできるはずない。そのおかげで黒竜(シャドウ)に決定的な一撃を与えられたし、君こそ最も多くの称賛を受けるべき存在だ」

「そ、そうかな……」

 素直に嬉しい言葉だった。
 おかげで少し照れてしまう。
 その気持ちを誤魔化すようにグラスに口をつけていると、ディルは私の顔を見つめながら続けた。

「君はいつも、僕を驚かせてくれるね」

 次いで彼は、しみじみとした顔で感慨深そうに話す。

「王立エルブ英才魔法学校に入学したその日も、才覚者だと自負していた僕を抜かして、君は首席入学者として堂々と名前を刻んだ」

 私もよく覚えている。
 それが気に食わなくて、ディルが入学初日に突っかかってきたことも。

「それからも成績を落とすことなく、むしろますます魔法の腕を上達させていって、名門の魔法学校の首席に常に居続けた」

 誰かさんが追いかけてくるからだよ、と私は心の中で笑う。

「僕はそんな君をずっと追い続けてきた。近づけば近づくほど、より遠い存在なのだと何度も思わされた。けど、君に勝ちたい一心で、僕は自分なりに魔法を追究していった」

 普段はあまり気持ちを表に出さないディルが、すごく嬉しそうに微笑んで言う。

「そしてようやく、君に一つだけ勝つことができた」

「……そうだね」

 こればっかりは負けを認めざるを得ない。
 ディルは私が習得できなかった五階位魔法を会得した。
 それを目の前で完璧に使いこなして、黒竜(シャドウ)を討伐してみせたのだ。
 でも、気分はまったく悪くない。
 そしてディルは、空に見える星々に手を伸ばしながら、噛み締めるように続けた。

「それでね、いつか君を追い越して白星を掴んだその時に、伝えようと思っていたことがあるんだ。実は今夜の晩餐は、それを伝えるための特別な席でもある」

「伝えようと思ってたこと?」

 不意にディルが、まっすぐな瞳でこちらを見据えてくる。
 何を言われるのだろうかと小首を傾げていると……

「ローズマリー……」

 ディルは、青空のように澄み切った顔で、はっきりと言った。

「僕は、君が好きだ」

 ドクッと、私の心臓が脈を打つ。
 まるで予想もしていなかった言葉を受けて、私は思わず固まってしまった。