夜になり、私は約束通りバルコニーへと向かった。
 程よくお腹も空いているため、うきうきとした足取りで二階へと向かう。
 バルコニーは屋敷の二階にある。
 小規模の食事会ならできそうなくらい開放的な場所で、町の様子も眺めることができるので景色もいい。
 到着すると、そこにはすでに食事が用意されていて、ディルが蝋燭に火を灯しながら待っていた。

 私が来たことに気付くと、彼は椅子を引いて席に座るよう促してくる。
 一連の所作があまりにも滑らかだったので、私は驚いて一瞬だけ固まってしまった。
 こんな風にエスコートされるのは初めてのことである。
 おかげで上空の綺麗な星空に気付くのも遅れてしまったほどだ。
 ともあれ椅子に腰掛けると、ディルがグラスにワインを注いでくれる。
 次いで対面の席に座り、彼は自分のグラスにもワインを入れてそれを掲げた。

「それじゃあ、黒竜(シャドウ)討伐お疲れ様、ローズマリー」

「うん、お疲れ様」

 互いのグラスを打ちつけ合って、グラスに口をつける。
 お酒はあまり得意な方ではなく、ディルはそれを考慮して選んでくれたのか飲み口が軽やかだった。
 それでいて味わいは芳醇で、気分を上品にさせてくれる。
 こんなことならもっと綺麗なドレスでも着てくればよかった。

「綺麗な星空……。バルコニーでお祝いしたのは大正解だったね」

 景色は最高だし料理は豪華。
 バルコニーは私とディル以外に人がいないので心地よい静けさに包まれている。
 でも、たった一つだけ懸念があった。