遠ざかっていく黒竜(シャドウ)の背中に右手を向けながら、私は瞬時に思考を巡らせる。
 四階位魔法の並列発動……
 いや、確実に間に合わない。
 魔法の発動速度には自身があるけど、並列発動となると僅かに時間が掛かる。
 黒竜(シャドウ)の両翼はすでに広がり、着々と背中が遠ざかりつつあるのだ。
 魔法で跳躍して追いつこうとするのも難しい。
 ここは単発の四階位魔法で、撃墜を試みるしかない。

 幸い、先ほどの四階位魔法の三並列発動によって、黒竜(シャドウ)は深傷を負っている。
 見る限り魔装も完全な状態ではないので、単発発動の四階位魔法を傷口に撃ち込めれば、充分な決定打になるはずだ。
 あとは私が、この一撃を外さなければ……

(性質は鋼。形状は大矢。【巨人殺しの鋼矢(ジャイヤント・キリング)】)

 右手の平に鈍色の巨大な魔法陣が展開される。
 そこから鋼鉄製の大矢が高速で射出され、飛び去っていく黒竜(シャドウ)の元へ飛来した。
 申し分ない威力と速度。照準も大きく狂いはしていない。
 私は祈るような気持ちで、放たれた鋼鉄の大矢の行方を見守った。
 そして、その祈りが届いたのか……

 矢は、黒竜(シャドウ)の傷だらけの右翼に直撃した。

「やった!」

 大矢に貫かれた黒竜(シャドウ)は、その巨体を空中でぐらりとふらつかせる。
 そのまま翼を止めて、黒き飛竜は力無く地面に落ちていった。
 だが……

「グ……オオォォォ!!!」